問い 9
まちに感じる「個性」はどこから生まれるの?
「あのまちに行ってみたい」「あのまちのここが何となく良かったな」そんな気持ちを持ったとき、思い浮かべているまちのイメージは「界隈」と名づけられるかも知れません。ここでは「界隈」とは、そのまちを訪れた人が“ここならでは”の雰囲気を感じられるまとまりや範囲のこと、と考えてみましょう。
では「界隈」を形づくるものを紐解いてみましょう。地図を確認すると、まずは地形、そして通りの幅や形状、町割り、敷地割りなどの骨格が見えてきます。文化財級の歴史的建造物だけでなく、風情を感じられる看板建築や古い木造建築、近年建てられた高層建築などの様々な建物もあるでしょう。そこに並んでいる建物の立ち方や間口幅に着目してみるのも良いかもしれません。また、建物の使われ方に着目すると、住宅や店舗など、様々な用途が見られます。お店のディスプレイや路上園芸、干してある洗濯物などは人々の息づかいを感じさせ、印象的な界隈を作っています。これらは都市空間の中で一朝一夕にできたものではなく、地層のように時代ごとの痕跡が重なることで立ち上がってくるものなのです。
植民地の歴史を持つアジアのまちでは、こうした歴史の層が特に強く感じられます。例えばベトナムの首都・ハノイの歴史地区「36通り地区」は、11世紀から19世紀まで続いた封建時代、19世紀のフランス植民地時代、その後の戦争と社会主義化と経済成長、と目まぐるしい変化を経験してきました。こうした時代の変化は、封建時代につくられた有機的な道路ネットワーク、植民地期に重ねられた道路拡幅や歩道の設置などの都市の基盤、さらに時代ごとに異なる町家の様式にも表れています。ある一角では、伝統的なベトナム様式や、植民地期に取り入れられたヨーロッパ風の意匠を使った様式などが現代的な改造を施された町家の合間に立ち並び、まちの記憶を伝えています。

こうした町家の中では活発な商業活動が営まれており、通りごとに漢方薬店、金属加工業、衣料品卸などの同業者が集まり、通りごとに独特の界隈を作り出しています。1,000年続くこの商売形態は、このまちの個性を強く印象付けています。
ただし、歴史的な建物がきれいに保全されている例は少なく、このまちでは多くの建物が改造され、上階への建て増しや歴史的様式のファサードへの室外機の設置など、必ずしも美しいまち並みとは言い切れません。それでも、建物の増築は狭く過密な町家の中で、少しでも住環境を良くしようとする気持ちがあるという背景を知ってから見ると、人々の思惑やエネルギーの表れを感じられるかもしれません。


このように、独特の界隈は、道路や建物といった形あるもの、人々の営みや活動、そして積み重ねられた歴史の層が絡み合って生まれるものです。丁寧に守られてきたまち並みもあれば、人々の営みや思惑が溢れ出すことで独特の「界隈」が形成されることもある。そうした界隈が集まって、まちの個性を作っていくのです。皆さんもぜひ、気になるまちの界隈を体験しながら、その歴史の層を紐解いてみてください。そのまちの理解が深まり、より楽しめるようになっていくはずです。
この問いを書いた人
都市計画研究室
柏原沙織 助教
町並みの変化を調べ、そのまちらしさを継承する方法を考える。
都市計画研究室 歴史的都市景観, 都市デザイン, まちづくり, そのまちらしい変化
この問いに関連する主な科目
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この問いのヒントになるコンテンツ
鈴木伸治編(2017)「都市の遺産とまちづくり アジア大都市の歴史保全」 春風社
アジア大都市の11の歴史地区で、界隈を形成する建物や伝統職業などの都市の文化遺産と、それらを取り巻く変化や保全の取組を、各都市で取り組む専門家、行政関係者、NGOメンバーらが紹介しています。
http://www.shumpu.com/portfolio/641/西村幸夫・野澤康編(2010)「まちの見方・調べ方-地域づくりのための調査法入門-」朝倉書店
「まちを調べる」ための方法を丁寧に解説した本。まちの歴史、地形、生活、計画など事実を知るための地図・資料の探し方、現地でのヒアリング調査や記録の仕方などを解説しています。
https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=26637&srsltid=AfmBOoon4z7klIlKj3fQ-mjNpSN054tVYQ5ED0QkOXYdKzfpmZEgoo5d